この記事は、2025年のVRChatを取り巻く環境や文化の変化を踏まえたPC選びの考察です。2022年からVRChatとPCスペックについて考え続けてきた筆者の経験に基づいています。明確なデータで示せない部分もありますが、PC選びに悩む方々の参考になれば幸いです。
第1章:VRChat用パソコン選びの「誤解」
誤解①「VRChat用PCは、とにかくハイスパでなければならない」
結論① 「必須」ではなく、あくまで「推奨」。でも、その理由が大切。

VRChatは設定次第でどこまでもPCに負荷をかけられるため、「現時点で手に入る最強GPUのRTX5090
でも性能が足りない」と言う人もいます。しかしそれは、負荷のかかる設定を意図的にしていたり、画質へのこだわりが非常に高かったりするだけで、普通の人が参考にするべき情報ではありません。例えるなら、「8Kモニターを120Hzで動かそうとして重たい」と言っているようなものです。
それでも、これから始める人にはなるべく高性能なPCをおすすめしたいと筆者は考えます。その理由は2つあります。
- 理由①:覚えることの負担を減らすため VRChatは操作や文化など、新しく覚えることが非常に多いです。ただでさえ大変なところに、「PCスペックの低さを設定でカバーする」という、もう一つの課題を増やしてほしくないのです。最初はなるべくシンプルに、VRChatそのものを楽しむことに集中してほしい、という願いがあります。
- 理由②:体験の質を保ち、身体的な負担を減らすため PCの性能が低いと、映像がカクカクして**「VR酔い」**が起きやすくなります。慣れないVRゴーグル(HMD)を着けるだけでも負担なのに、低いフレームレート(映像の滑らかさ)はさらに身体に負荷をかけ、VRChatから離れてしまう原因になりかねません。
ただし、昨今はPC全体の性能も上がってきており、30万~40万円ほどのゲーミングPCであれば、ほとんどの方にとって充分快適な水準に達しています。 60万円クラスの最高性能PCは、確かに素晴らしい体験をもたらしますが、初心者に提案するには金額的なインパクトが大きすぎますし、そこまでの性能は「過剰」である、と筆者は考えます。とはいえ、出費を厭わないクリエイターや、イベントなどでパフォーマンスを披露したい方には、あらゆる状況に対応できる最高性能のPCもおすすめできます。
誤解②「グラボはVRAM(ビデオメモリ)が多くなければならない」
結論② これも「必須」ではなく「推奨」。みんな気にしすぎかも?

VRAMが8GBのグラフィックボード(グラボ)で全く問題なく遊んでいるユーザーは多数います。筆者もサブ機でVRAM 8GBのRTX3060Ti
を2025年春ごろに使っていましたが、アバターファッションに気合が入っている人が多数集まる特定のワールド以外では問題は起きませんでした。
もちろん、今から新しく買うならVRAM 16GB以上をおすすめしますが、それは必須条件ではありません。「あった方が良い(ベター)」という善意の推奨が、いつの間にか「ないとダメ(マスト)」という強い言説に変わってしまっている傾向があると筆者は感じており、警鐘を鳴らしたいです。なお、筆者が多くの方と違う意見を口にするのは実際に動かして遊んだ経験に加えて下記の観点があります。
昔と今のVRChat環境の違い
昔はアバターのデータ容量に制限がなく、一体だけでVRAMを1GBも消費するような巨大なアバターもいました。そのため、VRAM容量不足になる場面が多かったと思われます。しかし最近は、アバターのアップロード時に容量制限が設けられたことや、SNS上でアバター容量について厳しく言及する人たちのおかげで、「アバター軽量化」の啓蒙活動が以前よりも進んでいます。その結果、意外とVRAM 8GBでも困らない場面が増えていると思われます。
よくある反論 「私のグラボではVRAM 8GB以上使っていた」
「VRAM 16GBのグラボで、使用量が10GBを超えていた。だから8GBでは足りないはずだ」という意見をよく見かけます。 しかし、これはPCが「余裕があるから、とりあえず多めにメモリを確保している(未解放のVRAMが貯まっている)」だけのことが多く、同じワールドでもVRAM 8GBのグラボで問題なく動作するケースは珍しくありません。
こうした言説は、高価な機材を買った人が「自分の投資は正しかった」と思いたい、本人も気づいていない心理的なバイアスがかかっているでしょう。また、適切にこの言説の正しさを証明するにはあらゆる条件をそろえた検証が必要であり、信ぴょう性に欠けます。
誤解③「CPUは『X3D』シリーズが常に最強」
結論③ 非常に高性能でゲーム性能が最強なのは事実。でも、万能ではありません。

お金に余裕があるなら、AMD社の3D V-Cache搭載CPU(例:Ryzen 7 9800X3D
)は非常におすすめです。しかし、人が大勢集まるワールドなどでは、その特殊なキャッシュの効果が発揮されにくく、通常のCPU(例:Ryzen 7 9700X
)と性能差がほとんどなくなる場面もあります。常に人が多いパブリックワールドに行くのがメイン、という方にとっては、そこまで価値が高くないかもしれません。
誤解④「お金を積めば積むほど”良い”パソコンになる」
結論④ 何を「良い」とするかは人それぞれ。Ryzen9は使用者を選ぶ

最上位クラスのCPUであるRyzen 9
シリーズは、性能を最大限に引き出すには細かい設定が必要で、PCに詳しいマニア向けの「ジャジャ馬」な側面があります。適切に設定しなければ、宝の持ち腐れです。下記の記事で必要な設定について解説していますので、Ryzen 9を買うか迷っている方は参考にしてください。
第2章:PC性能のチェック時の誤解
誤解⑤「CPU使用率が低いから、CPU性能は足りている」
結論⑤ それは違います。CPU使用率の数字に騙されてはいけません。

PC選びではグラボの話題が中心になりがちですが、VRChatはCPUの性能もかなり求められます。グラボに見合ったCPUを選ばないと、グラボの性能を全く引き出せません。
ここで多くの人が陥るのが、「CPU使用率の罠」です。
タスクマネージャーなどで全体のCPU使用率が低く表示されていても、実際にはCPUの処理能力が原因でパフォーマンスが頭打ち(ボトルネック)になっている、ということは珍しくありません。これは、VRChatのプログラムが、必ずしもCPUの性能(全コア)を常に100%効率よく使い切れるわけではないためです。したがって、CPU使用率の数字だけを見て「CPUの性能は十分足りている」と判断するのは大きな間違いです。CPUの性能が足りているかは、fpsVRというツールを使うことで分析ができます。詳細は下記の記事を参照際。
誤解⑥「Unityでのアバター改変が遅いのは、PCスペック不足のせい」
結論⑥ スペックではなく、Unityの「使い方」が悪い可能性が高いです。

アバター改変プロジェクトを開いたり、アバターをアップロード(Build)したりするのに時間がかかる場合、PCスペックよりもUnityのプロジェクト管理方法に問題があることが多いです。よくあるのが、1つのSceneに大量のアバターを並べてしまうアンチパターンです。複数のSceanを作成し、1つのSceanにつき、1つのアバターにすることで劇的に処理が早くなる事例を筆者は非常に多く見てきました。
Tips:ディスクは絶対に使い切らないこと(特にCドライブ)
PCのデータを保存するSSDやHDDの容量、特にWindowsがインストールされているCドライブは、容量を使い切ると様々な不具合の原因になります。
- 動作が極端に不安定になる(CPU使用率が100%に張り付く、など)
- SSD自体の寿命を縮める
容量が減ってきたら、不要なファイルをこまめに整理する習慣をつけましょう。
章3:失敗しないPCパーツの買い方
誤解⑦ PCパーツはAmazonで買うと安くていいか?
結論⑦ 実は危険。怪しい製品が多いことも理解しましょう。

特に注意してほしいのが「SSD」です。Amazonには、相場より安い激安SSDが多数出品されていますが、これらは耐久性に問題を抱えていることが多く、下記のような深刻なトラブルにつながる可能性が高くなります。
- ある日突然壊れて、大切なデータ(アバター、ワールド、思い出の写真など)が全て消える
- Cドライブに使っていた場合、PCが起動しなくなる
Amazonは、様々な出品者が集まる巨大な市場のようなものです。中にはサクラレビューで評価を偽装した粗悪品も紛れています。少し高くても、信頼できるメーカーの製品を選びましょう。
- 信頼できるおすすめSSDメーカー
- Samsung
- Crucial
- KIOXIA
- Western Digital
ちなみに、KIOXIAはVketにも出展している日本の企業(旧東芝メモリ)です。三重県四日市市の工場で作られた製品も多くあります。応援の意味も込めて選んでみるのはいかがでしょうか。
最後に:PCの情報は「生もの」です
PCパーツの世界は日進月歩です。半年前に最高の選択だったものが、新しい製品の登場や価格の変動によって、今では最適とは言えなくなることも日常茶飯事です。
ネットで情報を集める際は、「今、現在はどうなのか」という最新の視点を常に持つことが重要です。先入観を持たないように気を付け様々な人々の意見を取り入れて、PC選びをすることが大切です。そのため、古いまま更新されていない記事は話半分ぐらいで見ることをお勧めします。
Tips:2025年10月時点のPC構成例(BTOで買えるもの限定)
あくまでデスクトップPC単体の金額であり、モニターやキーボード等のPCを動かすのに必要な機器の予算も考慮に入れることが必要である点に初心者さんは注意です。
予算目安35万 かなり快適
CPU | Ryzen 7 9800X3D |
GPU | RTX5070 Ti |
メモリ | 32 GB |
予算目安25万 十分快適
CPU | Ryzen 7 9700X |
GPU | RTX5060 Ti 16GB |
メモリ | 32 GB |
予算目安20万 お勧めできる最低ライン
CPU | Core Ultra 5 225 |
GPU | Radeon RX9060XT 16GB |
メモリ | 32 GB |
予算目安15万 一応遊べるが予算を足すことをお勧めする
CPU | Ryzen 7 5700X |
GPU | RTX5060 |
メモリ | 32 GB |
予算目安10万 一応遊べるが予算を足すことをお勧めする
CPU | Ryzen 5 4500 |
GPU | RX7600 |
メモリ | 16 GB |
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